ちびたんは良く泣きます(笑)。
GCU時代、生後三ヶ月頃は良く笑う子でした。
看護師さんが前を通ると、必ず笑うそうです。
笑ってくれるからつい抱っこしちゃうとか。ちびたんの作戦成功ですね。
ちびたんが赤ちゃんだった頃、まだお昼寝をたくさんしていた頃、
ちびたんが大きくなったら読めるようにお話を作ろうと思いました。
ママが作ったお話があるっていいかなと、そのときは思ったんです。
ちびたんにはいつでも笑顔でいて欲しいので、笑顔がテーマ。
パソコンに埋もれてしまわないように、ここに載せさせてください。
「バイバイ、泣き虫」
ルルちゃんはみんなと仲良しでした。
一人でいると声をかけてくる友達がいました。
困っていると助けてくれる友達がいました。
ルルちゃんの周りはいつも笑い声が絶えません。
ルルちゃんがいつもにこにこしているので、自然と友達が集まってくるのです。
ルルちゃんがいつもにこにこするようになったのには秘密があります。
誰も知らないかもしれませんが、すべての赤ちゃんはお母さんのお腹に入る前に赤ちゃん学校に行きます。
赤ちゃん学校はソフトクリームみたな形の真っ白いふわふわの雲の中にあります。誰もがみな、かわいい赤ちゃんになるための勉強をするのです。そして、赤ちゃん学校の卒業試験に合格した赤ちゃんだけが、お母さんのお腹へ旅立てるのです。
卒業前には決まりがあります。
全員予防接種を受けるのです。
なぜって?泣き虫病にかからないためです。
泣き虫病はこわい病気です。泣き虫に刺されるとかかります。
泣き虫は、小さな子の涙にさそわれて寄ってきます。静かに寄ってきて、チクンとハリを刺すのです。泣き虫病にかかるのは、「つ」がつく年、十歳の誕生日まで。
だから、十歳を過ぎた子供が泣いても、泣き虫は知らんぷり。
もちろん大人が泣いたって、寄ってきません。
でも怖いことに、泣き虫病は伝染します。泣き虫病ににかかった子供の泣き顔を見た子供も、泣き虫病にかかってしまうのです。予防接種は泣き虫にチクンとされないようにはなりますが、伝染は防げません。
だから泣き虫病を発症させないことが大事なのです。
泣き虫病にかかると、どうなるのでしょうか。ちょっとしたことでも、泣くようになります。空が青いなと思っただけでも、少しお腹が減っただけでも、歯を磨くだけでも泣きます。
嬉しい時や悲しい時に泣くのは悪いことではありませんが、いつもいつも泣いていると楽しく暮らせません。泣き過ぎはよくありません。
予防接種を打つ前は、泣き虫病が流行。あちらこちらで泣き声が聞こえました。たくさんの子供の泣き声をいつも聞いていると、大人達も悲しい気持ちになりました。
そして、にぎやかで笑い声の絶えなかった街も、どんよりと灰色の空気が漂い活気がなくなりました。人々は、やる気がだんだんなくなって、一日中寝ているようになりました。
空も悲しくなって大粒の雨を降らせるようになりました。
この様子を見かねた神様は、考えました。泣き虫を全部退治することはできません。何日も何日も考え、赤ちゃん学校で泣き虫病の予防をすることを思い付きました。
予防接種を開始して間も無くすると、泣き虫たちは影を潜め街は昔のような明るさを取り戻しました。
すっかり泣き虫病がおさまり、数年が経ち泣き虫病のことを忘れかけた頃です。予防接種を受けず卒業させてしまった赤ちゃんが、一人だけいることが分かりました。ルルちゃんです。
赤ちゃん学校の先生は大慌て。予防接種を受けなかった赤ちゃんが泣き虫病にかかったら大変です。また泣き虫病が大流行してしまうかもしれません。
ルルちゃんは、まだお母さんのお腹の中にいました。今か今かと、外に出る日を楽しみにしています。
赤ちゃん学校の先生たちは集まってどうしたらいいか話し合いました。泣き虫病にならないためには、よく笑うことしか方法がありません。
でも赤ちゃんは泣くのがお仕事です。泣いてああして欲しいこうして欲しいと伝えるのです。
それでも、笑うしか泣き虫病にならない方法がないのであれば、やってみるしかありません。
先生達はルルちゃんの様子を見ていて、泣きそうになったら笑わせようと決めました。そして、神様に相談して心に笑い声を届けることだけは許してもらえました。なぜって。地上に旅立った赤ちゃんには、直接会えないからです。
うまくいくかはわかりませんが、ルルちゃんを空から見守って、泣きそうになったら笑い声を届けてみます。
ルルちゃんは、ほぎゃーほぎゃーと元気よく泣いて産まれました。先生達は空の上でヒヤッとしました。学校で教えたように元気よく上手に泣いているのは喜ばしいことですが、泣き虫がきたら大変です。
ルルちゃんは他の赤ちゃんと一緒に少しの間病院で過ごすことになりました。
しばらくするとルルちゃんの隣りの赤ちゃんが大声で泣きました。お腹空いたのです。
隣りの赤ちゃんのお母さんがにこにこしてやって来ました。やわらかな手で抱きしめておっぱいをお腹いっぱいに飲ませてくれました。
おっぱいを飲ませ終えるとお母さんは行ってしまいました。すぐに、また隣りの赤ちゃんが大声で泣きました。お母さんに抱っこをしてもらいたかったのです。
お母さんはまたにこにこしてやって来ました。赤ちゃんを優しく抱っこして安心する声で子守唄を歌いました。
隣りの赤ちゃんはすっかり満足して、お母さんの腕の中でスヤスヤと寝てしまいました。
その様子を見ていてルルちゃんは泣くと大好きなお母さんが来てくれることを知りました。お母さんに会いたい。ほぎゃーとルルちゃんが泣きはじめたときです。
わっはっはおっほっほ
ゆかいな笑い声がルルちゃんの心に届きました。ルルちゃんもついつられて笑ってしまいました。
いつのまにか、お母さんがそばにいてルルちゃんを抱っこしてくれました。お母さんはにこにこ笑顔。ルルちゃんはお母さんの笑顔を見て楽しくなって、たくさんにこにこしました。
しばらくすると、お母さんはどこかへ行ってしまいました。ルルちゃんが泣いてお母さんを呼ぼうとすると、笑い声が心から溢れました。ルルちゃんもつられて、笑ってしまいます。ルルちゃんの笑い声を聞いたお母さんが、トコトコと来てくれました。
ルルちゃんはうれしくなってきゃっきゃと笑いました。お母さんはルルちゃんの笑顔を見てとっても喜んでいました。
ルルちゃんは笑ってもお母さんが来てくれることに気が付きました。それからルルちゃんは笑ってお母さんを呼ぶようになりました。
ルルちゃんはその笑い声を聞くと泣いていたことも忘れるくらい楽しい気分になるのです。ルルちゃんは泣き虫病にかからず、小学生になりました。
学校の先生達はルルちゃんがよく笑う子に育って、ほっとしました。それでも十歳までは油断できません。先生たちは、ずっと空の上から見守り、ルルちゃんが泣きそうになると笑い声を届け続けました。
ルルちゃんは、赤ちゃんの頃からにこにこしていたので、すっかり笑顔が似合う女の子になっていました。
ある日のことです。
給食当番のルルちゃんが、大きなお鍋にはいったカレーを運んでいました。カレーの鍋がとても重いので、ルルちゃんは手が痛くなってきました。
やっと配膳台が見えたとき、ルルちゃんは転んでしまいました。教室の入り口の引き戸のレールにつまづいたのです。カレーの入った大きなお鍋は、教室の床にひっくり返ってしまいました。床にはカレーの海が広がります。
ルルちゃんは、びっくりしてその場に立ち尽くしてしまいました。みんなが大好きなカレーをこぼしちゃった。どうしよう。みんなが楽しみにしていたカレーが食べられなくなっちゃった。
ルルちゃんは、とても悲しくなりました。いつもにこにこしているルルちゃんの顔がくしゃっと歪み、目からぽろぽろと大粒の涙がこぼれました。急いでルルちゃんに笑い声を届けましたが、今回ばかりは涙が止まりません。先生達は頭を抱えました。
涙の匂いに誘われてどこからともなく泣き虫が飛んできました。先生達は大慌て。空から見ているだけで、何も出来ません。
泣き虫が、針でルルちゃんを刺そうとしていました。先生達は、手で目を覆いました。困ったことになるぞ。ルルちゃんとみんなの笑い声が聞こえたのです。泣き虫に刺され、ルルちゃんの泣き声が大きくなると思いきや、泣き虫は大きな笑い声におどろいてどこかへ飛んで行ってしまいました。
大きな笑い声の原因は、たかしくん。
「床がキュッキュッってなってお腹が空いていると思ったの?だからカレーを食べさせてあげたんだね。」
お調子者のたかしくんがおどけて言ったのです。たかしくんの口調がとっても面白くてみんなつい笑ってしまったのです。たかしくんは泣いているルルちゃんを励まそうとしたのです。たかしくんの作戦成功。ルルちゃんは、すっかり泣き止みました。
「みんなごめんね。カレーをこぼしてしまって。」
ルルちゃんはみんなにあやまりました。泣いていないで自分の気持ちをしっかり言葉にしたルルちゃんは、さっぱりした気持ちになりました。
みんなはルルちゃんがわざとやったのではないことを知っています。口々にだいじょうぶだよと言いました。その様子を空から見ていた赤ちゃん先生達は、嬉しそうに目をほそめました。
それからもルルちゃんは、何度となく泣きました。転んでケガをした時。友達とケンカした時。リレーの選手になれなかった時。でも泣き虫病にかかりませんでした。わっと泣いても、泣き虫が寄ってくる前に泣き止んでしまうのです。そんな経験をくり返しているうちに、泣かなくてもつらいことを乗り越えられる強い子になりました。
「つ」が取れる十歳の誕生日、赤ちゃん学校の先生達はルルちゃんの夢の中でルルちゃんとお話する機会を神様から特別に与えられました。
「十歳のお誕生日おめでとう。」
「ありがとう。十歳ってとってもお姉さんになったみたい。うれしいな。なんだって一人でできちゃうもん。」
ルルちゃんは、はずんだ声で言いました。
「ところで、おじいさん達はなんで私のことを知っているの?」
ルルちゃんは不思議そうにたずねました。誰もルルちゃんの問いには答えません。ただ、にこにこ優しく笑っていました。白いあごひげをはやしたおじいさんが優しさにあふれたよく響く声で言いました。
「これからもにこにこ笑顔を忘れずに」
そこに、お母さんの心地よい声が聞こえました。
「ルル。そろそろ起きなさい。」
ルルちゃんは目を覚ましました。会ったこともないのに、おじいさん達のことをよく知っているような、不思議な気持ちになりました。おじいさん達のことをよく思い出そうとしましたが、思い出せませんでした。いつしか、おじいさん達のことも忘れていきました。
ルルちゃんは笑顔が素敵な大人になり、笑顔が素敵な人と結婚しました。ルルちゃんは、お母さんになりました。産まれたての小さな赤ちゃんをみて、いつでも笑顔を絶やさないお母さんでいようと思いました。
この小さなかわいい赤ちゃんにも、たくさん笑って欲しいと思いました。いつも笑顔でいたら、いいことが起こるからです。
なぜかふと、子供の頃に夢で見たおじいさん達のことを思い出しました。
ルルちゃんのおうちの窓からは、きょうも、たくさんの笑い声があふれています。